アソウ・ヒューマニーセンターグループ人材白書
Quarterly Report vol.18 2008年4月発行

CSR経営と労働・雇用 労働者派遣法改正のポイントについて

派遣大手による違法行為が次々と明らかになり、派遣法改正をめぐる議論へと発展しています。
しかし、こうした不祥事は法律を改正すれば解決する問題でもないようです。
その根底には、企業にCSRに対しての認識がまだ十分に浸透していないことが大きな要因として挙げられます。
CSRとは何か、さらにCSRにおけるコンプライアンスと雇用や派遣法改正の動向について見ていきたいと思います。

CSRとはコストや業務付加の増加ではなく  企業を強くするための武器となるもの

CSRとは、「Corporate Social Responsibility」の頭文字をとった表現で、「企業の社会的責任」や「企業の社会に対する責任」と訳されています。そして責任という言葉が持つ義務や責務というニュアンスから、「また新しい仕事が増える」「コストがかかる」といった反応を示す企業も多いようです。
しかし、CSRの考え方に対する認識が足りずに誤解すると大きな損失を招きます。なぜなら、CSRという動きは今後、企業の存続に対してより厳しい要求をつきつけてくる可能性があるからです。
そして、「その重要性に気づいた頃にはすでに勝敗がついている」とも言われます。それはCSRが「コスト」や「業務付加の増加」ではなく、実は企業をより強くするための武器になりうるからです。

CSRに明確な定義はありませんが、中心となるのは企業が事業活動を行うなかで、社会的な公正さや環境への配慮などを通じて、係わりのある利害関係者(ステークホルダー)に責任ある行動を取るべきだという考え方です。利害関係者とは、消費者、取引先、地域社会、株主、従業員などです。
たとえば経済同友会ではCSRの概念について次のように定義しています。「CSRは企業と社会の持続的な創造発展に資する」「CSRは事業の中核に位置付けるべき『投資』である」「CSRは自主的な取り組みである」。

CSRの背景にあるものとは?  7割以上の企業が何らかのCSR活動を実施

最近、急速にCSRが注目を浴び出した背景には、1)企業のグローバル化、2)環境問題、3)消費者の価値観の多様化があると言われています。
1)については、企業活動が全世界を舞台にするようになり、社会に与える影響も規模も大きくなったこと。またインターネットなどの普及でグローバルに企業活動が監視されるようになったこと。2)は、環境に配慮することが企業の価値を高めるという側面を持つようになり、環境問題がプラス指向で捉えられるようになったこと。3)は、「良い企業」という既存の価値観が変化し、商品の価格が高くても、企業理念やコンセプトを重視して商品を選ぶ消費者が出てきたこと、などが挙げられます。

では、具体的には企業はCSRに対してどのような取り組みを行っているのでしょうか。
2005年10月に日本経団連が行ったCSRに関するアンケート調査では、回答を寄せた572社のうち、75.2%に当たる430社が、CSRを意識した何らかの活動を行っていると答えています。さらに90.7%(519社)が「経営理念」に関する方針を作成。「企業行動」と「社員の行動や倫理」に関する方針を持っている企業の比率はともに8割を超えています。
そして、CSRを推進するにあたって「現在最も優先的に取り組んでいる分野」、「将来最も優先的に取り組んでいると思われる分野」の双方でトップだったのが「コンプライアンス・法令遵守」でした。

CSRの活動有無と取り組み分野

労働・雇用もCSRの大きな柱のひとつ  新卒の企業選び・就職活動にも影響

そして今、労働・雇用の観点からもCSRを検討する必要性が高まってきています。2004年6月に厚生労働省が発表した『労働におけるCSRのあり方に関する研究会』の中間報告書では、その主な理由として次の2点を挙げています。1)従業員の働き方に十分な考慮を払い、個性や能力を活かせるようにしていくことは、企業にとって本来的な責務である。2)従業員に責任ある行動を積極的にとっている企業が、市場において投資家、消費者や求職者から高い評価を受けるようにしていくことは有益である。最近では、こうした労働・雇用環境におけるCSR意識の高まりは、新卒学生の企業選びや就職活動においても表れています。
CSRでは、「時価総額」といった経済的な側面だけに基づいた企業価値から、社会的価値としての広義の企業価値が求められるからです。利益追求だけではなく、環境への配慮や地域社会への貢献、従業員に対する処遇や働く環境の改善などが求められ、その中でいかに働きがいを感じながら仕事ができるかに学生たちの関心が集まっているのです。
コンプライアンスを中心に、経営者の志や企業の幹が感じられる骨太のCSRが求められるゆえんです。

4月1日より日雇い派遣の規制を強化  労働者派遣法も改正へ議論

こうした『CSR経営と雇用』の問題の中で、現在、議論が高まっているのが、労働者派遣法をめぐる課題と改正の動きです。すでに、違法就労などが相次いだ日雇い派遣制度については規制が強化され、4月1日から施行されることが決まっています。具体的な内容については、以下のとおりです。
1)労働者派遣の期間が1日を越えない場合であっても派遣先にも管理責任者の選任や管理台帳の作成を義務づけ。2)派遣先管理台帳への記載事項として、派遣就業をした場所や従事した業務の種類を追加。3)派遣先企業が支払う料金と派遣労働者に支払う賃金の公開。4)労働条件の明示を徹底することや日雇い雇用保険への適切な加入。5)二重派遣を防ぐために、派遣元と派遣先の双方に就業場所の巡回の実施
また、労働者派遣法全体をめぐっても見直しの議論が進んでいます。具体的な論点としては、1)仕事があるときだけ派遣元企業と雇用契約を結ぶ登録型派遣について、細切れで雇用が不安定という意見。2)派遣受入期間について最長3年の期間制限は撤廃または延長すべきという意見と維持すべきという意見。3)一定期間雇用した場合に派遣先に課せられる労働者への雇用申込み義務についてなどです。
特に登録型派遣については、全派遣労働者の約7割強を占めるだけに、原則禁止や対象業務の制限を求める労働側と現状維持とする経営側の意見の相違は大きく議論の行方が注目されています。

改正パートタイム労働法が施行  説明義務の強化や処遇の改善へ

4月1日からは、改正パートタイム労働法も施行されます。そのポイントについて紹介しておきます。
1)労働条件の文書交付等
雇い入れの際、契約期間、仕事をする場所と仕事内容、始業・終業の時刻や所定時間外労働の有無、休日・休暇、賃金などに加えて、「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」の3つを文書で明示することが義務づけられます。
2)待遇の決定についての説明義務
パートタイム労働者から求められたとき、事業主はそのパートタイム労働者の待遇を決定するに当たって考慮した事項を説明することが義務づけられます。
3)均衡のとれた待遇の確保の推進
パートタイム労働者の待遇を通常の労働者との働き方の違いに応じて均衡(バランス)を図るための措置を講じるように規定されています。具体的には、職務の内容、人材活用の仕組みや運用、契約期間の3つの要件が通常の労働者と同じかどうかにより、賃金、教育訓練、福利厚生などの待遇の取り扱いについて規定されています。
4)通常労働者への転換の推進
パートタイム労働者から通常の労働者へ転換するチャンスを整えることが義務化されます。
5)苦情処理・紛争解決の援助
パートタイム労働者と事業主の苦情・紛争の解決の仕組みが整えられます。

障害者雇用促進法が改正へ  CSRの観点から障がい者雇用を捉える

身体障がい者の採用に関する企業の考え方

『CSR経営と雇用』のなかでの重要なテーマが、障がい者雇用の問題です。すでに障がい者の問題は「福祉」だけでなく「雇用労働」の問題として捉え直すことが新しく大きな潮流となってきています。昨年末には「障がい者自立支援法」も施行され、障がい者の自立、なかんずく経済的自立がその大きな目標として掲げられました。現在も、企業に対して雇用義務を課すなど法的にも強制力が強い政策がとられていますが、今後は雇用のいっそうの進展を求めた方策がとられていくものと予想されます。すでに厚生労働省による障がい者雇用促進法改正案の概要も固まり、国会での成立を待つのみとなっています。
現行法では、従業員56人以上の企業に対して、原則週30時間以上働く常用労働者のうち1.8%以上を障がい者とするように求めています。また未達成の企業に対しては障がい者雇用納付金として、不足1人につき5万円を課しています。ただし、常用雇用者301人以上の企業が対象です。厚生労働省の昨年の調査では、民間企業で働く障がい者は初めて30万人を突破し、雇用率も1.55%で過去最高となりました。しかし、法定雇用率(1.8%)を達成した企業の割合は43.8%と半分以下で、特に従業員1000人以上の大企業の達成率が最も低くなっています。
改正案では、雇用率制度を見直し、パートも雇用率の対象としたり、中小企業への義務づけを強化しています。具体的には、労働時間が週20時間以上30時間未満の短時間労働者も雇用率に算入できるようにするもの。また納付金の支払い義務の対象を300人以下の中小企業にまで段階的に拡大することが検討されています。
しかし、こうした施策を義務や負担として捉えるのではなく、CSRに基づくステークホルダーへの積極的な責任の実行、さらに企業は多様な人材を集めることで力を持つという考え方に立って取り組みたいものです。障がい者雇用というテーマは、今や企業が経営活動を継続するなかで避けて通れない重要な課題といえるでしょう。

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